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「日本共産党vs部落解放同盟」 筆坂秀世+宮崎学著 モナド新書(にんげん出版)

はじめに 日本共産党と部落解放同盟とは何であったのか
第1章 蜜月の時代に生まれていた対立の萌芽
第2章 同和対策は毒まんじゅうか 解放同盟内での対立
第3章 矢田事件、八鹿事件 同盟と党の暴力的対立
第4章 全面的な路線対立・組織対立へ
第5章 部落解消論と利権問題
補論 日本共産党と部落解放同盟対立の歴史的・社会的背景
              おわりに 差別からの解放はどうやったらできるか

期待して買いましたが、いい本だと思います。大部な『戦後部落解放運動論争史』を読むのはちょっと、という人と、近年の動向を知りたければこの本がベスト。特に、共産党の変節の仕方についてはあやふやな理解だったので、この本でかなり明確になった。ただ、糾弾に関しては過大評価のように思う。糾弾をしない(運動をしない)当事者が悪いという自己責任のロジックにならないかどうか心配。(来年出る児童養護施設経験者の単行本の僕の章で、同じような問題点を書いているので、お楽しみに。)

部落問題は単に封建遺制性の問題ではない。社会運動内部での対立そのものも新たな社会問題としてとらえられるべきでしょう。その対立がさらなるタブーを生み出している。あおりを食らっているのはまじめに取り組んでいる人たちです。

現代の部落問題について一言ある人は、少なくとも教養レベルでこれくらいのことは押さえておいて欲しい。部落問題を社会運動と切り離して考えることはできないし、だからこそ部落解放運動は社会運動論としてきちんと検証しておく必要がある。

あと、司会者は補論を書いている大窪一志さんという方だろうか? 非常に明快な論点の提示をしていることに驚いた。

二つほど引用。

「筆坂 それから、部落解放運動と学生運動との大きな違いは、一般大衆のなかにある部落への差別意識です。これが、共産党のほうがそこまで計算したかどうかは別にして、やっぱりじっさいに働くんですよ。とくに選挙なんかになれば、あきらかに働いたと僕は思います。「まあ部落にくらべたら、共産党の方がええやろ」という意識が、働いたと思います。
 宮崎 「部落は怖い」というのもあるし、共産党が「解同の暴力に屈せず…」とやっていると、そうかなということになる。それと、「不公平な行政をやっている」「利権をあさっている」という批判は、わりあいわかりやすいし、入りやすい。暴力と利権の解放同盟と正義と公正の共産党、という図式がすっと入っていくことになる。」(p116)

差別意識の選挙利用が共産党の経験者から語られていることは非常に興味深い。


「かつて共産党員を指して「主義者」と呼ばれたことがある。一つの学説に強烈に拘泥し、しかもマルクスやエンゲルスの社会主義革命は「世界史的必然」であり、それを成し遂げることはプロレタリアートの「歴史的使命」とされたことにより、急進的、非妥協的運動体として共産党が生まれた。共産党は科学的社会主義を「人類知識の総和」などというが、急進性と非妥協性は、ほかの思想や学説を厳しく排斥することを特徴としていた。
 だから共産党を離党した人々、あるいは除名・除籍された人々にたいして、「転落者」「変節者」「反党分子」などと口の限りの汚い言葉で蔑視することが、共産党の特質となっていったのである。」(p248)

部落解放同盟と共産党の対立の本質は、おそらく「身分」か「階級」か、今風に言い換えれば、特に1970年代以降は当事者主権か国民融合か、であると思うけれども、それ以外にもこうした組織のあり方から生み出されている側面もおおいにある。そして、こうした対立と反目は、解放同盟と共産党だけに限らず、正義を掲げる「組織」にはありがちなことです。その結果、誰に利することになるのか? 学べることはたくさんあるはずです。

しかし、この本、誰が買うんだろうか?(笑)

                                              (2010/12/31 りゅうし