さ行
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賤民の後裔――わが屈辱と抵抗の半生 北原泰作著 筑摩書房
序章 ふるさと風土記
第一章 人間の出生と運命
第二章 幼少年時代の思い出
第三章 青年時代の思想遍歴
第四章 軍国主義に抗して
第五章 直訴という衝撃的な抗議
第六章 衛戌刑務所の受刑兵
第七章 陸軍教化隊の記録
第八章 社会民主主義と左翼小児病
第九章 革命と恋愛に秘めた情熱
第十章 党の壊滅と理論信仰の崩壊
第十一章 軍国主義とファシズムの嵐
第十二章 敗北への過程
あとがき
北原泰作といえば、軍隊内の部落差別を訴えるために天皇に直訴した事件で社会に衝撃を与え(はるか後に園遊会に出たってのがまたおもろい—「あとがき」より)、同和対策審議会答申を書いた人のひとりであり、国民融合論の基礎を作った人。
古本で買っていたので完読。
とってもおもしろかった。後の半生も書いてもらいたかったけれどもそれはかなわない。
思想の転換(アナーキズム・共産主義・全国水平社解消論・共産党入党・逮捕の後転向・部落厚生公民運動)や共産党との関係が赤裸々で面白い。
僕もそんなに詳しくはないけれども、社会主義・共産主義・アナーキズム・ボルシェビズムなどが理解できないと部落解放運動って何のこっちゃわからんのではないかなと思う。少なくとも、社会主義へのリアリティがない若い人には意味不明だろう。それで、そのあたりの理論的総括がないからなおさらよくわからない。まぁ、解放運動って現場ではかなりプラグマティックなのが面白いところだと思うけど、研究者にとってみると、それをまとめるのはとっても大変やね…。でもまとめんといかん。
少なくとも、党の方針(テーゼ)が絶対で、それに右往左往せざるを得なかった、ということ自体が僕にとってリアリティがない。それだけ今は自由な社会だということか…。治安維持法・特高・スパイなど、別世界の推理小説みたいな話だけれども、現にそういう時代だったんだなぁと改めて確認したしだい…。
ほか、面白かったのは鵜飼の鵜の話。
「鵜が自己の生活手段の価値を生産するために必要な労働は、せいぜい一時間で十分足りるが、鵜飼はたっぷり二時間おこなわれる。二時間の労働のうちの一時間は、剰余価値を生産するために使われる剰余労働なのである。このような搾取のからくりをマルクスは理論的にみごとに説明した。」(p5)
労働ってのは手の労働だったんだなあと…。
同時代の人、朝田善之助の『差別と闘い続けて』(朝日選書)を併せて読むのもいいかもしれない。
(2009/02/03 りゅうし)
食肉の部落史 のびしょうじ著 明石書店
第一部 食をめぐる部落史
第1章 食をめぐる部落史
第2章 食をめぐる部落史 拾遺
第二部 食肉社会史のゆくえ
第3章 近世社会の食肉問題とケガレ
第4章 江戸時代の肉屋さん
第5章 肉屋誕生前後——近代食肉社会史の構想
付章 <書評>原田信男『歴史の中の米と肉』
近世期から相当に食肉が広まっていたことには改めて驚かされます。
それはそれとして、何と言っても「食の自分史」が泣けます。
(2008/10/02 りゅうし)